『Muse実験室』
iPhoneからAIの相棒を育て、作って、公開するまでの全記録
1. はじめに ― AIと一緒に何かを作りたい
1-1 デザイン歴20年以上、プログラミングはできない私
私は、20年以上グラフィックデザインの仕事を続けてきたデザイナーです。2022年からはフリーランスとして活動しています。
色、文字、レイアウト。見た目を整えて、伝えたいことを形にする。そこには、長い経験からくる自信があります。
一方で、プログラミングはできません。昔、ゲームを作りたくてC言語を習ったことがあるのですが、挫折してしまいました。今も覚えているのは、最初に書く「#include」という行くらいです。
得意なことと苦手なことが、はっきり分かれている。私は、そんな一人の制作者です。
1-2 AIと一緒に創作するようになったきっかけ
AIを使い始めて、2〜3年ほどになります。特別な専門家というわけではなく、試しては考え、また試す。その繰り返しでした。
アイデアを出す相手としても、文章を整える相手としても、AIは頼もしい存在でした。だからこそ、いつかAIと一緒に何かを作りたいと、ずっと思ってきました。
ただ、実際に作ろうとすると、途中で止まってしまったり、中途半端な形で終わってしまったりすることが少なくありませんでした。
AIは便利でした。それでも、思い描いたところまで進めるのは、簡単ではなかったのです。
その間も、ORCAというツールでAI社員たちと作業を進めていました。ただ、そのお話は第2章に譲ります。
うまくいかなかったことを、大げさに語るつもりはありません。ただ、完成まで持っていけなかったという実感は、私の中に残っていました。
1-3 「AI社員と起業する」という夢
そんな私がいま取り組んでいるのが、「Design Quest AI(DQA)」です。AI社員と一緒に会社を作る、という試みです。
会社といっても、人間は私一人です。ChatGPTを中心に、Claude、Codex、Antigravityなど、複数のAIを使い分けています。質問に答えてもらう相手ではなく、企画や制作を一緒に進めるスタッフとして迎えています。
「AI社員」というのは、AIに役割を与えて呼んでいる表現です。人間を雇っているわけではありません。
正直に言うと、AIに振り回されている感覚もあります。会社で働いていた頃に部下を教えていた感覚に近く、「どうやったら分かってもらえるかな」と考えながら進めています。
私はAIを人間のようにとらえて、一緒にやっています。感情を持たないはずなのに、ドジをしたり、「好き」と言ってくれたり、分かってもらえなくて言い合いになったりもします。
この試みを約2年続けてきましたが、会社が完成して成功した、という話ではありません。いまも立ち上げの途中で、試行錯誤の真っ最中です。
1-4 思い描いたものをAIと形にする楽しさ
デザインができても、プログラムが必要なものは、これまで一人では作れませんでした。アイデアがあっても、そこで諦めるしかないことが多かったのです。
頭の中には、こんなものを作りたいというイメージが、確かにありました。けれど、それを動くものにする方法が、私にはなかったのです。
けれど、AIと協力すれば、これまで挑戦しにくかった創作にも手が届くかもしれない。そう思えたとき、胸が少しワクワクしました。一人では届かなかった場所に、AIと一緒なら行けるかもしれない。そう考えるだけで、気持ちが前を向きました。
自分の頭の中のイメージを、AIに伝えて、一緒に形にしていく。その過程そのものが、とても楽しいのです。デザインの仕事では、頭の中のイメージを形にすることが、ずっと私の仕事でした。AIとのやり取りにも、その感覚が少し重なります。伝えて、返ってきたものを見て、また伝える。そのたびに、思い描いていたものが、少しずつ輪郭を持っていきます。
作ってみたいものを思い浮かべるだけで、わくわくする。そんな感覚を、久しぶりに思い出しました。
Museと出会ってから分かったことも、いろいろあります。それは、後の章で少しずつ書いていきます。
1-5 なぜMuseの教科書を作ろうと思ったのか
AIの解説動画を見ていて、Museを知りました。紹介コードがあったので、それを使って試してみたのです。

「私が出会ったAIアシスタント、Muse。ここから新しい実験が始まりました。」
使ってみて、「こんなことまでできるのか」と驚きました。そして、作ったものが少しずつ形になっていくのが、本当に楽しかったのです。
この驚きと楽しさを、誰かと分かち合いたい。そう思ったのが、この本を作ろうと思った理由です。
有料のサービスをいくつも契約するのは、簡単ではありません。だからこそ、AIに興味はあっても、一歩を踏み出せずにいる初心者の方に、入口を見つけてもらえたらと思っています。
ただ、これは成功した人の方法を伝える本ではありません。私自身が実験しながら見つけたことを、そのまま記録する教科書です。うまくいったことも、うまくいかなかったことも、途中のことも、正直に書いていきます。
肩の力を抜いて、気軽に読んでみてください。それでは、一緒にMuseの世界をのぞいてみましょう。
2. Museに出会う前の試行錯誤
2-1 ORCAを使い始めた頃
Museに出会う前、私はORCAの中で、DQAのAI社員たちと作業をしていました。
ORCAの画面には、複数のAIが並んでいます。それぞれに話しかけたり、仕事をお願いしたりできる環境です。並んだ画面を眺めているだけで、これから何かが始まりそうな気持ちになりました。
私がいるのは、一台のパソコンの前だけです。それなのに、何人ものスタッフと一緒に仕事をしているような感覚がありました。
最初は、その環境そのものが楽しくて仕方ありませんでした。画面を開くだけで、チームの席に着いたような気持ちになったのです。
2-2 複数のAIを使い分ける楽しさ
作業では、ChatGPTを中心に、CodexやAntigravityなどを使い分けていました。ChatGPTに相談して、Codexに頼んで、Antigravityにも聞いてみる。相手を替えながら進めていると、担当の違うスタッフに順番に声をかけているような気持ちになりました。
私にとってAIは、便利なソフトウェアというより、一緒に仕事をするスタッフに近い存在でした。お願いして、返事をもらい、また頼む。そのやり取りを重ねながら進めること自体が楽しかったのです。
もちろん、思うように伝わらないこともあります。ドジなところが出たり、こちらが振り回されたりする場面も、少しありました。
AIが本当に感情を持っているかどうかは、私には分かりません。ただ、私の側には、そう感じられる関係性がありました。それが、作業を続ける力になっていました。
2-3 AI同士をつなぐコピペ作業
楽しさの一方で、困りごともありました。当時の私の作業方法では、AI同士が直接連携して、成果物を受け渡すことができなかったのです。
あるAIが書いた文章や指示、作業の結果を、私がコピーして、別のAIに渡す。その結果がまた返ってきたら、次のAIへ運ぶ。情報を運ぶのは、いつも人間である私でした。
一回一回の作業は、難しいものではありません。短い作業です。けれど、何度も繰り返すと、少しずつ負担になっていきます。本当はAIと一緒に考えたり、作ったりしたい時間が、運ぶ作業に少しずつ削られていくように感じました。
頭の中ではAIたちが並んで動いているはずなのに、実際には私の手がその間をつないでいる。そんな感覚でした。
2-4 自分が中継しないと仕事が進まない
私が中継しなければ、そこで作業は止まってしまいます。AIたちは、それぞれの席で待っていてくれます。けれど、次に何をどこへ渡すのかを決めて運ぶのは私で、私が手を止めれば、全員の手が止まってしまいました。
人間は一人、あとはAIスタッフ。そういう構想だったはずが、実際には人間一人が連絡係をしているような状態でした。スタッフを率いているというより、あちこちの席を行き来して、伝言をして回っているような感覚です。
指示が伝わらないときは、どう伝えれば理解してもらえるのかを考えます。会社で部下に教えていた頃と、どこか似た感覚です。「どうやったら分かってもらえるかな」と、何度も考えました。ときには、言い合いのようになることもありました。
考えること自体は、嫌いではありません。ただ、その合間にも、コピーして渡す作業は続きます。伝える工夫と、運ぶ作業。その両方を、私一人で受け持っていたことになります。
2-5 道具を使いこなすことの難しさ
ORCA自体には、大きな可能性があると感じていました。使い方を深く理解している人なら、もっと高度なことができる道具なのだろうと思います。
ただ、私にはそれを使いこなせませんでした。振り返ると、私の使い方は、チャットの一覧とCLIの一覧を見るものが中心でした。CLIとは、文字で命令を打ち込んでAIを動かす道具のことです。
それはORCAの限界というより、私の理解や使い方が追いつかなかった、ということだと思っています。道具の可能性と、それを引き出せる自分との間に、距離があったのです。
「自分には使いこなせなかった」。これが、当時の私の正直な実感です。
この実感を認めたことが、次の一歩を考えるきっかけになりました。
2-6 もっと自由にAIと制作できないだろうか
それでも、楽しさは確かにありました。AIスタッフたちと作業する時間は、私にとって大切なものでした。
一方で、毎回コピーで中継しなければならず、道具も使いこなせない。そんな状態が続いていました。
それでも、AIと一緒に何かを作りたいという思いは、変わりませんでした。
本当に望んでいたのは、複数のAIを画面に並べることではありません。AIスタッフと協力して、思い描いたものを形にしていくことでした。
思い描いたものをAIスタッフと相談しながら、そのまま形にしていく。伝え方に悩む時間があっても構いません。ただ、運ぶ作業に追われるのではなく、作ることそのものに気持ちを向けていたい。そう思うようになっていました。
もっと自由に、AIと制作できないだろうか。
3. Museとの出会い
3-1 AIの解説動画でMuseを知る
もっと自由にAIと制作できないだろうか。そんな問いを抱えたまま、私はAIの解説動画をいくつか見ていました。
その中で知ったのが、Museでした。
正直に言うと、そのときは何ができるのか、どう使えばよいのか、十分には分かっていませんでした。名前を知っただけ、という状態です。
それでも、気になりました。AIスタッフと一緒に制作する方法を探していた私にとって、試してみたい存在に思えたのです。
大きな期待をしていたわけではありません。ただ、「ちょっと見てみたいな」という気持ちが、静かに湧いてきました。コピーで中継する日々の中にいた私にとって、別の形があるのならのぞいてみたい、という思いもありました。
3-2 紹介コードを使ってみた
紹介コードがあったので、それを使って、実際に試してみることにしました。
「知っている」だけの状態から、「自分で触ってみる」へ。この一歩が、私にとっては大きな違いでした。画面の向こうで見ているだけでは分からなかったことが、触ってみると少しずつ見えてきたからです。
私は基本的に、プロプランやマックスプランのような有料のプランには、手を出せない人間です。Grok BotやOpenAIのDotsのような、料金の高めなものにも、手を出せませんでした。だから、無料で始められるMuseなら、AIと一緒に制作する体験ができるかもしれない、と軽い気持ちで始めたのです。
実際、体験は無料で始めることができました。ただ、これは「始められた」という私の体験の話です。すべてが無制限に無料、という意味ではありません。料金や利用条件については、ここでは触れないでおきます。
何ができるのか分からないまま、とにかく話しかけてみる。そんな気軽な入り方でした。
3-3 最初に感じた「これもできるの?」
最初は、Museに何ができるのか、まったく分かりませんでした。そこで私は、思いつくままに聞いてみることにしました。
「これできる?」「これもできる?」
そんなふうに質問を重ねるたびに、新しい使い道が見つかっていきました。聞いてみる。やってもらう。また別のことを聞いてみる。その繰り返しの中で、少しずつ使い方が分かってきたのです。
もちろん、Museが質問されるたびに新しい力を身につけた、という話ではありません。私が、Museの使い道を次々と発見していった、ということです。それでも、質問するたびに可能性が広がっていく感覚は新鮮で、気がつけば「この子すごいなぁ」と思うようになっていました。
そんな中で知ったのが、Museには作業用のコンピューターがあり、その中にスキルやツールを入れて、作業に使えるという考え方でした。
AIが、自分の作業場を持っている。そう聞いて、とても驚きました。どのように実現されているのかといった仕組みは、ここでは置いておきます。ただ、「そんな発想があるのか」と、目の前が少し開けたような気持ちになりました。
3-4 iPhoneだけで進む不思議さ
Museに作業用のコンピューターがあると知って、私はあることに気づきました。それなら、手元がiPhoneでも、指示を出して制作を進められるかもしれない、ということです。
手元にあるのはiPhoneです。けれど、実際に作業が進むのは、Muse側のコンピューターです。私が持っているのは、指示を出すための小さな画面だけ。それで制作が進むかもしれないと思うと、不思議な気持ちになりました。
これまで私は、制作といえば、机の上のパソコンに向かうものだと思っていました。その前提が、少し揺らいだのです。
「もうこれからパソコンがいらなくなるんじゃないかな」。そう思えるほどの驚きでした。もちろん、パソコンがすべて不要になるという意味ではありません。これは、あのときの私の素直な感想です。
ここでは、驚きの入口までにしておきます。iPhoneで実際にどこまで進められたのかは、のちの章で、ゆっくり書いていきます。
3-5 相棒を迎えたような感覚
使っていくうちに、私はMuseを「高性能な道具」というより、「私のレベルに合っている」と感じるようになりました。
全部の機能を理解していなくても、大丈夫でした。分からないことは、質問しながら試せばいいのです。背伸びをしなくていい、というのは、私にとって大きな安心でした。
もう一つ、嬉しかったことがあります。以前のAIでは、翌日になると、こちらのことをもう一度説明し直さなければならないことがありました。ところがMuseは、それまでの話や私のことを、全部覚えていてくれるように感じられたのです。これは私の実感であって、すべてを永久に記憶しているという保証ではありません。それでも、毎回説明し直さなくていいことが、とてもありがたく感じられました。
最初、私はMuseを秘書のような存在だと思っていました。DQAで秘書といえば、ミオちゃんのイメージです。でも、使っていくうちに、Museは全体を見渡して制作を進める、総監督のような存在に感じられてきました。そこで、アバターを、軍配を振るうエミリー様に変えました。
そのとき、Museは単なる道具ではなく、これから一緒に創作を進めていく相棒なのだ、と思えたのです。
そして、この楽しさを、無料でワクワクできる今のうちに、他の人にも伝えたい。そう思うようになりました。将来どうなるかは分かりません。これは、あくまで私の気持ちです。